Profile
レオ
さん
弁護士
静岡県出身の弁護士。
製造業の家業を持つ“アトツギ”としてのルーツを持ちながら、企業法務から家族法務まで幅広く手がける。現在は、法律の枠を超えてアトツギ支援にも注力し、経営の壁打ち相手や新規事業のサポートなど、多面的な支援を行っている。音楽に夢中だった学生時代から、家族の思いと向き合う弁護士の道へ。レオの軌跡には、迷いながらも真っ直ぐに歩んできた一人の人間としての熱が詰まっている。

弁護士とアトツギ支援、ふたつの顔
——普段はどんなお仕事をされていますか?
今の仕事は大きく分けて二つあります。一つは弁護士としての企業法務、もう一つはアトツギ支援の活動です。弁護士の仕事では、特にオーナー企業さんを多く扱っていて、会社の法務と家族の相続・遺言などが密接につながるケースが多いんですよね。だから、企業だけでなく個人や家族にも寄り添えるのが、自分の強みだと思っています。
一方のアトツギ支援では、兵庫県のベンチャー型事業承継プログラムに関わっていて、講師や壁打ち相手として、若い後継者の新規事業のアイデアをブラッシュアップしたり、株主構成などの相談に乗ったりしています。法的なアドバイスだけでなく、事業面の実行支援もしているので、まさに“弁護士の枠を超えた活動”ですね。
弁護士を志した原点は、父の夢だった
——そもそも、なぜ弁護士になろうと思ったのですか?
音楽が大好きで、ずっとバンドをやっていました。中学3年の終わりからドラムを始めて、仲間と一緒に音を作る楽しさにのめり込んでいたんです。高校の夏、進路を考え始めた時に、たまたま家で古い法律の本を見つけました。その裏表紙に、父の名前が書いてあったんです。
父は製造業の社長だったんですが、実は若い頃、弁護士になりたくて司法試験を目指していたらしいんです。でも、合格できずにその夢を諦めた、と初めて聞かされました。なんで家に法律の本があるんだろうって思ったことから、父の想いを知ることになった。
音楽で人を元気づけたいという気持ちはずっとありましたが、それが別の形で「誰かのために何かをしたい」という方向に変わっていったのかもしれません。父の想いも、自分の中に少しずつ重なって、自然と弁護士という道に惹かれていきました。
地方出身の普通の高校生から弁護士へ
——弁護士を目指す中で、どんな苦労がありましたか?
僕の地元は静岡県の清水町という人口3万人ほどの小さな町で、駅もないような田舎でした。弁護士なんて周りに誰もいない環境だったので、そもそもどうやってなるのかも分からなかったんです。
勉強は得意ではなくて、中学も高校も普通の公立校でした。だから、進学校出身の人たちに囲まれていると、自分だけ遅れているように感じていましたね。でも高校3年の夏に「やるなら今しかない」と思って、そこから猛勉強しました。本当に寝る間も惜しんで勉強したのは、あの時期が一番だったかもしれません。
その結果、早稲田大学に進学できて、そこからロースクールに進み、司法試験も一発で合格することができました。振り返ると、地元で育った普通の子が、偶然とタイミングの重なりで、少しずつ道を切り拓いてこれたのかなと思います。

法律だけじゃない。
アトツギの「心の壁打ち」になる
——アトツギ支援では、具体的にどんなことをされているのでしょうか?
例えば、ある企業のアトツギの方が将来を見据えて、新規事業にチャレンジしたいと考えている。そんな時、気軽に相談できる相手って、実はあまりいないんですよね。親世代とはどうしても話がかみ合わなかったり、顧問の税理士さんも年上で相談しづらかったり。
だから僕は、ただ法的な助言をするだけじゃなくて、まずは“そばにいる”ことを大切にしています。一緒に悩んで、考えて、壁打ちをして、成長していく。精神的な支えになれることが大きな価値だと思っています。
もちろん、新規事業の構想についても具体的に話します。「この販路はどうですか?」とか、「この提携先との契約はこう進めましょう」といったアドバイスも、弁護士として契約に落とし込むところまでサポートできるのが自分の強みです。
中小企業をフラットな立場に引き上げるために
——弁護士として、企業の取引にも関わることがあるんですね。
そうですね。特に中小企業って、取引先が大手だったりすると、契約のひな形を一方的に提示されて、それが不利かどうかすら判断できないことが多いんです。そういうときに僕が同席して、その場で話を聞いたり、裏から助言をしたりして、少しでも対等な立場に持っていけるようにしています。
僕自身が中小企業のアトツギだったからこそ、現場の理不尽さも肌で分かるし、「ここは引いていいけど、ここは守るべき」という線引きを一緒に考えられる。それは、単なる法律の知識ではできないことだと思っています。
“死ぬまで寄り添う支援”を目指して
——どんなアトツギと一緒に取り組んでいきたいと考えていますか?
僕は理念や思いを大事にしているので、いくら報酬を積まれても、応援したいと思えない案件はやらないんです。逆に、「この人と一緒に歩みたい」と思える方とは、長い時間をかけて関わっていきたい。
特にものづくり系の企業や、地域で頑張っている企業さんには思い入れがあります。僕の実家も金型加工の下請けだったので、やっぱり“続けることの価値”を大切にしている人と一緒にいたいと思うんです。
今は神戸を拠点にしつつ、全国のアトツギとつながっていて、東京や大阪、愛知、福岡と、現場にもどんどん足を運んでいます。「現場に行かないと見えないことがある」というのが持論なので、自称“世界一動く弁護士”なんですよ(笑)。
応援したい企業には、柔軟に寄り添う
——弁護士に相談するのは費用面が気になるという声もありますが、そのあたりはどう考えていますか?
たしかに「弁護士=高い」というイメージがあると思いますが、僕自身は「これで儲けよう」という気持ちはあまりないです。応援したい企業さんであれば、初期費用を抑えたり、企業の成長に応じて少しずつ報酬を上げていくなど、柔軟に対応しています。
実際、定額の顧問契約からスタートして、会社が伸びてきた段階で「報酬を上げさせてください」と逆に言ってもらうこともあります。だからまずは「この人と一緒にやりたい」と思えるかどうか。それが出発点ですね。

弁護士の枠を越えて、未来を共に創る存在に
——今後、どんな支援者になっていきたいと考えていますか?
自分の中で大事にしているのは、「弁護士という枠を超えて、未来志向の価値をつくる存在になりたい」ということです。これからの時代、AIやテクノロジーの進化で、いわゆる“従来型の弁護士業”には限界が来るかもしれない。だからこそ、法律だけに閉じずに、もっと広く、経営や家族の悩みにもトータルに寄り添っていける存在でありたいと思っています。
例えば、僕は過去に資生堂の経営戦略部門に出向して、M&Aや組織再編のプロジェクトマネージャーをやっていた経験があります。普通の弁護士にはない現場感覚を持っているのが、自分の強みですね。経営の現場に入ることで、相手の立場を本当の意味で理解できるようになった。それは、弁護士としての“サービス”を超えた、共に歩む“姿勢”に繋がっていると感じます。
親と子の「ねじれ」に、第三者として寄り添う
——アトツギ支援ならではの難しさって、どんなところにあると感じていますか?
やっぱり、親と子の間にある“見えないねじれ”ですね。たとえピカピカの経歴を持ったアトツギでも、親からすれば「まだ子ども」。一方で、子どもから見れば「親だけど上司」というややこしさがある。その間に、僕のような第三者が入ることで、対話の糸口が見えてくるんです。
例えば、親子で一緒にご飯を食べる場に僕も同席して、間を取り持つこともあります。ただそこにいるだけで空気が和らぐ。親の言い分も、子の想いも、どちらも分かるからこそできる役割だと思っています。実際、自分もアトツギだったからこそ、「分かってくれている」と信頼されるのかもしれません。
「続いてきたこと」に敬意を持つことから始まる
——支援するうえで、特に意識していることはありますか?
まずは、その企業が「続いてきたこと」に敬意を持つこと。それが何より大切です。事前にWebサイトや歴史を徹底的に調べて、どんな想いでここまでやってきたのかを知ったうえで向き合います。
よくアトツギの方が「うちには何もない」って言ったりしますけど、何十年も経営が続いてきた時点ですでに“すごい”んです。その価値を、軽んじてはいけないと思っています。そして、その価値の上にどんな未来を重ねるかを、一緒に考えていくのが僕の役割ですね。
支援者として大切なのは、「誰と働きたいか」
——これからアトツギ支援に関わろうと考えている人に、どんなメッセージを伝えたいですか?
アトツギ支援の面白さって、短期的な成果じゃなくて、長期的な関係を築いていけることだと思います。毎月の売上やノルマに追われる日々から少し離れて、「自分の人生として、誰と働きたいか」を見つめ直す機会になる。これは本当に特別なことです。
だから、「儲かるかどうか」ではなく、「この人と働きたいか」を大事にしてほしい。アトツギは一人で悩んでいることも多いけれど、こうした支援の場に飛び込めば、全国に仲間がいることを知れる。それだけで、人生が大きく変わる可能性があると思うんです。
行動こそが、未来をつくる
——最後に、このインタビューを読んでいる方に伝えたいことがあれば教えてください。
とにかく、悩んでいるなら一歩踏み出してみてほしい。社会はどんどん変化していくし、じっとしているうちにチャンスが通り過ぎてしまう。だからこそ、「まずは動く」ことが本当に大事です。
一人では難しくても、仲間とならできることはたくさんある。地域で孤独に頑張っている方こそ、ぜひ全国の仲間とつながってほしい。アトツギ支援は、人生をかけて関われる、すごく面白いフィールドです。興味を持ってくださった方と、ぜひどこかでお会いできたら嬉しいです。